はじめに:自転車業界を超え、すべての事業者・地域に関わる「巨大な課題」
先週のコラムでは、現場のプロ技術者を対象とした「自転車販売士」の資格再開についてお伝えしました。これは主に自転車ショップや整備事業者といった「自転車業界内部(B2B)」の技能を守るための資格です。
しかし、今年4月の「青切符(交通反則通告制度)」導入によって危機に直面しているのは、自転車業界だけではありません。
- 通勤で従業員が自転車を利用している「一般企業・事業者」
- 業務で配送や訪問等に自転車を使っている「各種サービス事業者」
- 子供や高齢者の事故リスクに直面している「地域コミュニティ・自治体」
当協会(JBRA)が新設する「自転車安全アドバイザー」は、自転車業界の枠を大きく飛び出し、これらすべての企業・地域社会を対象としています。ターゲットとなる分母は、まさに日本全国の事業者と生活者そのものです。
数ヶ月の準備期間を経て、いよいよ募集を開始するこの新資格について、今週と来週の2回にわたって「アドバイザーとは一体何をする人なのか」を詳しく解説していきます。
「自転車安全アドバイザー」とは何をする人なのか?
一言で言えば、自転車安全アドバイザーとは「公道における事故リスクと法的リスクを客観的に診断し、未然に防ぐ専門家」です。
従来の「交通安全指導員」や街頭のマナー指導と、アドバイザーの役割は根本的に異なります。
学校や警察が行ってきた従来のマナー教室の多くは、「ルールを守りましょう」「右左折時は一時停止しましょう」という一方的な「お説教(精神論)」になりがちでした。しかし、それだけでは事故も違法行為も防げないことが、これまでの歴史で証明されています。
自転車安全アドバイザーは、精神論ではなく「物理法則」と「法律・判例(民事責任)」の二つの客観的事実に基づき、乗り手や企業に対して具体的かつ実践的な防衛策をアドバイスするプロフェッショナルです。
自転車事故における企業のリスクを軽減する「盾」としての役割
アドバイザーが果たす最大の役割の一つが、一般企業における「連座リスク(企業防衛)」の回避です。
従業員が通勤中や業務中に自転車で加害事故を起こした場合、あるいは青切符で検挙された場合、企業の社会的信用やブランディングは一瞬で失墜します。特に、歩行者を巻き込む事故では数千万円から1億円規模の損害賠償請求が発生し、企業側にも「使用者責任」や「安全配慮義務違反」が厳しく問われる時代になりました。
自転車安全アドバイザーは、企業内で以下のような実務を担います。
- 通勤・業務利用における安全管理の規程化 単に「自転車保険に入りなさい」と自己申告させるのではなく、車両の整備状態や加入状況、走行ルールの遵守状況を組織として正しく監査・把握する仕組みを作ります。
- 「教育の証跡(エビデンス)」の残しかた 万が一事故が発生した際、裁判や社会に対して「会社として最高水準の安全教育を実施していた」という客観的な証明(当協会のLMS講習履歴や公証データ等)を提示できる状態を整えます。
- 従業員の「自発的なリスク回避行動」の定着 「なぜ歩道走行が危険なのか」「なぜ逆走(右側通行)をすると裁判で相殺ゼロになるのか」という構造的リスクを正しく教育し、従業員自らが危険を回避する知性を養います。
おわりに:次回は「地域・コミュニティでの実践」へ
「自転車安全アドバイザー」は、単に資格証を飾るためのものではありません。企業や組織の中に一人アドバイザーが存在するだけで、その組織全体を「数千万円の法的負債」や「ブランド崩壊」から守る強固な盾となります。
次回(後編)は、このアドバイザーが「地域コミュニティや個人」において、どのようにして『防げる事故を防ぐコミュニティ』をつくり出していくのか、具体的なハザードマップの活用や実践アプローチについて解説いたします。
資格の募集要項や認定カリキュラムの詳細につきましては、順次当サイトおよび公式noteにて公開してまいります。

